離婚してから難聴に悩まされることになった主人公が、病気を克服した体験を話し合う座談会に出席すると、そこにはYという速記者が仕事で来ていました。もちろん、主人公とYとは初対面、しかも黒子の速記者とは直接やりとりをするわけでもありませんが、主人公はそのYの繊細な指の動きにすっかり心を奪われてしまいます。
音楽でも、作曲者が同じなら何となく曲に「色」があります。小説にも、やはりそういう「色」があるのではないかと、この物語を読んでそう思いました。小川さんの作品では「博士の愛した数式」が大ヒットしましたが、あの微細な描写というか、共通するものが多いと思いました。
全体にゆったりした速度でストーリーは進んでいきますが、終盤には思わずゾクッ!となるような展開が待ち構えています。速記関係者は必読でしょう。